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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)32号 判決 1949年12月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告訴訟代理人弁護士松尾菊太郎、堤牧太の上告理由第一点について

按ずるに投票用紙に記載すべき被選挙人の氏名は必ずしも戸籍上の氏名であることを必要とせず氏だけでもよければ名だけでもよく要はその記載によつて候補者の誰かを選ぶ趣旨が確認できるものであればその投票を有効とすべきものであることは所論のとおりである、しかし原判決の確定するところによれば所論の投票中甲第三一、甲第四九、甲第五〇、甲第七五、甲第八九号証にはいずれも「イ」とのみ記載されており甲第三九号証には「フ」とのみ記載されているというのであつて(投票用紙における記載内容は原判決の確定するところによる以下同じ)本件候補者中他にイのつく者またはフのつく者はないけれども右の記載だけで岩永藤樹を選ぶ趣旨が表明されているとは到底認めることができない、然らば原審が右投票を無効と判断したことは正当であつて論旨は採用できない。

同第二点について

所論乙第二三号証の投票には「井輪長富士木」とあり、原審は投票者が真面目に岩永藤樹を議員として選出する意思を欠いたものとして無効としているがわが国には古来万葉仮名と称する漢字の仮名があるのでこの投票者はそれに真似て書いたものと思われるので多少奇を衒つたきらいがないでもないが右記載は「イワナガフジキ」と明らかに読みうるのであるからこれは岩永藤樹の投票として有効であると認めるのが正当である、然らば原審がこれを無効と判断したのは違法ではあるが、岩永藤樹と竹内清吾との得票差は三票であるから右の違法は判決に影響を及ぼさないこと明らかである、それゆえ論旨は原判決破毀の理由とならない。

同第三点について

所論甲第七三号証の投票は「イ」の一字は明らかであるがその下の文字は文字の体をなしていないから所論の如くこれを「イワナカ」と記載したものとは認められない、甲第一一二号証の投票の第一字は「イ」であるが第二字は文字の体をなしていないから所論の如くこれを「ワ」と書いたものと認めることはできない、甲第一二〇号証の投票は「ノフガ」又は「イマガ」と読まれるのであるから以上の投票はいずれも無効と認めるのが相当である。

次に甲第一一七号証の投票は「ケタナフチ」又は「クタナフチ」と読まれるのであるからこれを岩永候補者に投じた票と認めることは困難である、甲第五七号証の投票は「イウゴ」又は「イワゴ」と読まれるのであるからこれも前と同じく岩永候補者の得票と認めるのは困難である、また乙第五二号証の投票は候補者氏名欄内に「イワナガ」とありその左欄外に「ウロシテ」と読まれる記載があるからこれは他事を記載したものとして無効と認めるのが相当である、又次に甲第一二一号証の投票は明らかに「イワオ」とあるからこれを岩永候補者の有効投票と認めることはできない。

次に所論甲第一一六号証の投票の「藤永秀樹」は岩永藤樹の四文字中三文字まで符号しているのでこれは投票者が投票記載の際誤記したものと認めるのが相当であるから原審がこれを無効と判断したことは違法である、然し岩永藤樹と竹内清吾との得票差は三票であるから右の違法は判決に影響を及ぼさないこと明らかである、従つて論旨はすべて理由がない。

同第四点について

所論甲第四六号証には「岩永繁」甲第五八号証には「岩永岩人」甲第五九号証には「岩永森一」、乙第五三号証には「岩永吉次」、甲第四五号証には「中島藤樹」と記載してあるがこれらの投票はいずれも岩永藤樹を誤記したものとは到底認めることはできないから候補者に非ざる者の氏名を記したものとして無効と判定するのが相当である、従つて論旨は採るを得ない。

同第五点について

所論甲第五三、甲第五六、甲第七四号証にはいずれも「山永」と記載されておりその筆勢字形等からみて第一字の「山」が「岩」の誤記であると認めることはできないから原審がこれ等の投票を無効と判定したのは正当である、また甲第八六号証の第一字は明らかに「岩」であるがその下の一字は「不」と誤まれるが更に他に「タ」の一字を記載してあるからこれを岩永候補者の有効投票と認めることはできない、次に甲第四四号証には「克水」と記載してあるからこれを「岩永」と認めることはできない、それゆえ論旨は理由がない。

よつて本件上告は理由がないから民事訴訟法第三九六条、第三八四条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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